近年、大きな地震が相次いで起こったことから地震保険への関心が高まっています。火災保険とセットで加入する地震保険ですが、万が一に備えて加入したけど内容はよくわかっていない、保険料は安くないので加入前にどこまで適用されるのか知りたいという人も多いと思います。地震保険はどこまで補償されるのか紹介します。
地震保険の対象となる建物・家財
地震保険の対象となるのは居住用の建物と居住用の建物に収容されている家財一式です。建物と家財はそれぞれで加入する必要があり、「建物のみ」「家財のみ」「建物と家財の両方」というパターンが考えられます。
居住用の建物
地震保険はどのような建物でも加入できるわけではなく、居住用の建物(店舗併用住宅も含む)に限定されます。1階が飲食店で2階が自宅となっている場合などの併用住宅は対象となりますが、工場や事務所専用の建物など住居として使用されない建物については対象外となります。
なお、門や塀、物置などは建物に含めて契約をすることができますが、門や塀などにしか損害が発生しなかった場合は補償の対象外となります(後で説明します)。
居住用建物に収容されている家財⼀式
家財の対象となるのは基本的に電化製品、家具、衣類、食器などの生活に欠かせない「動かすことができるもの」です。備え付けのシステムキッチンや浴槽などは家財には含まれず、建物の方の対象となります。家財の対象となるのは引っ越しのときに持ち運んでくるものをイメージするとよいでしょう。なお、引っ越しのときに持ち運んでくるものであっても、自動車や動植物、現金、有価証券、印紙などは対象ではありません。
また、火災保険と異なるところとして、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属、宝石、書画、骨董等(いわゆる明記物件)も対象外となります。火災保険では契約時に申告して保険証券に明記すれば補償対象となりますが、地震保険では補償対象外となります。
どのような損害が補償される?
地震保険では地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災・損壊・埋没・流失によって、地震保険の対象である建物や家財が損害を受けた場合に保険金が支払われます。
具体的には、以下のような被害で補償を受けられます。
- 地震による揺れで外壁や基礎にクラックが生じた
- 地震による揺れで建物が倒壊した
- 地震による揺れで食器が割れた
- 地震による揺れで家具・家電などが倒れて破損した
- 地震による揺れでストーブが倒れ、火災になった
- 地震による揺れで液状化現象が起こり、建物が傾いた
- 地震や火山の噴火で津波が起こって建物が流出した
- 噴火による溶岩流や噴石、火山灰、爆風によって倒壊・埋没した
- 噴火による火砕流で建物が燃えた
- 地震や噴火による土砂崩れで建物が流出や埋没した
なお、上で挙げたような損害であっても損害の程度が以下の一部損に満たない場合は補償対象外となります。
損害の程度 | 建物の基準 | 家財の基準 |
---|---|---|
全損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の50%以上となった場合、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の70%以上となった場合 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の80%以上となった場合 |
大半損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の40%以上50%未満となった場合、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の50%以上70%未満となった場合 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の60%以上80%未満となった場合 |
小半損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の20%以上40%未満となった場合、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の20%以上50%未満となった場合 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の30%以上60%未満となった場合 |
一部損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の3%以上20%未満となった場合、または建物が床上浸水もしくは地盤面より45cmをこえる浸水を受け、建物の損害が全損・大半損・小半損に至らない場合 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の10%以上30%未満となった場合 |
注意ポイント
建物における主要構造部とは、土台、柱、壁、屋根等の建築基準法施行令第1条第3号に掲げる構造耐力上主要な部分のことをいいます。生活に必要な部分であっても、塀、垣、エレベーター、給排水設備のみの損害など主要構造部に該当しない部分のみの損害は補償されません。
保険金はどれだけ受け取れる?
火災保険は実際の損害額が保険金として支払われますが、地震保険では上で紹介した損害の程度に応じて、地震保険金額の〇%という形で保険金が支払われます。前述の通り、損害の程度が一部損に満たない場合は保険金は支払われません。
損害の程度 | 支払われる保険金 |
---|---|
全損 | 地震保険金額の100% (時価額が限度) |
大半損 | 地震保険金額の60% (時価額の60%が限度) |
小半損 | 地震保険金額の30% (時価額の30%が限度) |
一部損 | 地震保険金額の5% (時価額の5%が限度) |
地震保険金額というのは地震保険の保険金の上限額です。地震保険金額は火災保険の保険金額の30%~50%の間で設定することになっています。ただし、建物は5000万円、家財は1000万円が限度です。
保険金を受け取れないのはどんな場合?
地震保険の保険金支払いの対象とならない主な場合を紹介します。以下のような事例では地震保険の保険金の支払の対象にはなりません。
地震等が発生した日の翌日から10日経過後に生じた損害
地震等が発生した日の翌日から10日経過後に生じた損害については、地震等との因果関係がはっきりしなくなるため、保険金が支払われません。
紛失または盗難によって生じた損害
大規模な地震後、避難生活で不在の間を狙って盗難等が起こる場合がありますが、紛失や盗難によって生じた損害は補償の対象外です。
門、塀、垣のみに生じた損害
門、塀、垣は建物の主要構造部に当たらないため、その部分のみに生じた損害については地震保険の対象外となります。
一部損に満たない損害
損害の程度の調査の結果、一部損に至らないと判定された場合は地震保険の支払いの対象とはなりません。
自動車やバイクの損害
自動車やバイク(総排気量125cc超)は家財に含まれないので、地震保険の補償対象にはなりません。自動車保険でも地震等による損害は対象外になっていますが、一部保険会社では契約車両が地震等で全損した場合に一時金が支払われる特約もあります。
高額な家財1点のみが壊れた場合
地震保険における損害の査定では個々の価格は考慮されません。5万円のテレビが壊れたという場合も50万円のテレビが壊れたという場合も等しくテレビが1点壊れたという計算になります。そのため、家財が1点壊れたというだけでは基本的に一部損に満たず、保険金の支払いの対象とはなりません。
地震保険の査定はどうやって行うの?損害の認定方法は?
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まとめ
地震保険の対象となるのは居住用の建物と居住用建物に収容されている家財⼀式です。対象となる建物や家財に地震・噴火・津波による損害が発生した場合に損害の程度に応じた保険金が支払われます。なお、一部損に満たない場合や避難生活中を狙った盗難、自動車やバイクの損害などは対象とならないのでご注意ください。どのような場合に地震保険の対象となるのか理解して、地震に対してしっかりと備えるようにしましょう。
著者情報
堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。