火災保険の基礎知識

失火責任法とは?もらい火の火事は損害賠償請求できない!?

投稿日:2019年3月8日 更新日:

延焼によって損害を受けても火元の人に損害賠償請求ができないという話を聞いたことはありませんか?明治時代にできた「失火ノ責任ニ関スル法律」(失火責任法)という法律によって規定されている内容です。失火責任法とはどのような法律なのか説明します。

失火責任法とは

失火責任法(失火ノ責任ニ関スル法律)は明治32年に定められた、失火者の責任に関して規定した法律です。条文は短く、以下のような内容です。

民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

口語訳すると、「民法第709条の規定は、失火の場合には適用しない。ただし、失火者に重大な過失があったときはこの限りではない。」という内容です。

民法第709条というのは、故意または過失で他人に損害を与えたら損害賠償責任を負うという内容の法律です。つまりは、「重大な過失がある場合は除き、火災で他人に損害を与えてしまっても損害賠償責任は負わない」というのが失火責任法の内容です。

重大な過失の事例

失火責任法でも責任を免れない重大な過失として判断された事例を紹介します。重過失として認められるのは、わずかな注意さえ払っていれば予見、防止できたのにそれを漫然と見過ごしたような場合です。例えば、以下のような事例では重過失が認められています。

  • てんぷら油の入った鍋を火にかけたまま長時間台所を離れた
  • 寝たばこをしていた
  • 石油ストーブの火をつけたまま給油を行った
  • 電気コンロをつけたまま就寝し、ベッドからずり落ちた毛布に引火した

なお、上で挙げたような事例ですべてが重過失と認められるというわけではありません。個別の状況に合わせて判断されます。例えば同じ布団に引火した事例でも、「ガスストーブに点火してベッドに寝そべって週刊誌を読んでいるうちに寝入ってしまい、布団にガスストーブの火が燃え移った」というケースで重過失には当たらないという判決が出されています(新潟地裁昭和53年5月22日判決)。

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重過失以外で損害賠償責任を負うケース

重過失がある場合以外にも失火責任法の対象とならずに損害賠償責任を負うケースがあります。どのような場合か紹介します。

ガス爆発は失火責任法の対象外

ガス爆発による延焼の損害は失火責任法の対象外です。ガス爆発による延焼は失火ではないからです。ガス爆発で隣家などに損害を与えてしまった場合には損害賠償責任が生じますので個人賠償責任保険などで備えておくことが大切になります。

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大家さんへの損害賠償は必要

賃貸物件に住んでいて自分が火元になって延焼した場合、延焼した先への損害賠償責任については失火責任法の適用で賠償責任を負いません。しかし、大家さんへの損害賠償は必要となります。

賃貸物件を借りる際に賃貸借契約を結びますが、その中に原状回復義務が含まれています。失火によって賃貸物件に損害を与えた場合、この原状回復義務を履行することができないので、債務不履行による損害賠償責任が発生します。債務不履行による損害賠償は民法第415条に規定があり、失火責任法で適用除外となる民法第709条ではありません。そのため、大家さんへは損害賠償を行わなければならないのです。

しかし、自分も火災によって損害を受けているのに大家さんに損害賠償をするのは大変だと思います。それをカバーするのが賃貸を借りる際に加入する火災保険です。賃貸を借りる際に加入する火災保険の中には基本的に借家人賠償責任保険が含まれていて、これにより大家さんに対する損害賠償で補償を受けることができるのです。

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隣家の人に悪い…というときは類焼損害補償特約や失火見舞費用保険金

失火責任法によって延焼しても重過失がなければ損害賠償責任は負いません。しかし、全くお金を払わないのは隣家の人に悪い、今後のご近所づきあいを考えると少しでもお金を払いたいと考える人もいるのではないでしょうか?そのような場合に役立つのが類焼損害補償特約や失火見舞費用保険金です。

類焼損害補償特約とは、類焼先の家が火災保険に未加入であったり加入していても補償額が十分でなかったりした場合に、相手の火災保険の不足分を補うためのものです。ちなみに、「類焼」は他から出火した火事(もらい火)で焼けること、「延焼」は火事が燃え広がることを意味します。

また、失火見舞費用保険金については、火災または破裂・爆発によって他人の所有物(建物・家財など)に損害を与えてしまったときに、見舞金を払う費用として保険金が支払われるものです。1世帯当たり30万円が限度であることが多いです。

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自分の家は自分の火災保険で守ろう

以上で説明してきたとおり、失火責任法により隣家などからのもらい火で自宅が燃えても火元に損害賠償請求をすることができません。賠償責任がなくても損害賠償に応じてくれる可能性もありますが、相手も火災で財産を失っていますので賠償額が十分な金額になるとは限りません。自分の家に受けた損害については自分でかけている火災保険を利用するのが基本だということを覚えておきましょう。


堀田健太

著者情報

堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。

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インズウェブ

「保険(Insurance)」とインターネット「ウェブ(Web)」の融合から、サイト名『インズウェブ(InsWeb)』が誕生しました。自動車保険の見積もりを中心として2000年からサービスを提供しています。現在の運営会社はSBIホールディングス株式会社となり、公正かつ中立的な立場で自動車保険のみならず火災保険に関する様々なお役立ち情報も提供しています。

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