火災保険の基礎知識

借家人賠償責任保険とは?賃貸では必須?

投稿日:2019年5月29日 更新日:

賃貸物件を借りるとき、火災保険の契約を求められることがほとんどだと思います。賃貸用の火災保険の補償内容を確認してみると、借家人賠償責任保険(補償)というものが含まれています。どのような内容の補償なのか、賃貸用の火災保険になぜ必要なのか紹介します。

借家人賠償責任保険とは

借家人賠償責任保険とは、借りている部屋で火災や破裂・爆裂、水ぬれなどが起こり、大家さんに対して損害賠償責任を負った時にその費用を補償する保険です。

通常、部屋を借りるときには原状回復義務を負います。通常使用の範囲の損耗や経年劣化であれば問題ありませんが、故意や過失等で部屋に損害を与えてしまった場合は復旧して返還する義務があります。これを果たせないと債務不履行として大家さんは借主に対して損害賠償請求ができます。このような損害賠償に備えるのが借家人賠償責任保険です。なお、あくまでも偶然な事故によって借りている部屋に損害を与えてしまったときの補償なので、故意に改造した場合などの原状回復費用などは補償されません。

失火の場合は失火責任法で損害賠償請求できないのでは?

日本には失火責任法という法律があり、重大な過失である場合を除き、失火によって他人に損害を与えてしまっても民法第709条に基づく損害賠償責任は負いません。民法第709条というのは、故意または過失で他人に損害を与えたら損害賠償責任を負うという内容です。

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この内容からすると、失火によって借りている部屋に損害を与えてしまっても大家さんは損害賠償請求できないのではないかと思う人もいるのではないでしょうか。しかし、実のところ失火の場合であっても大家さんは借主に対して損害賠償請求ができるのです。

なぜかというと、大家さんは原状回復義務を果たせないということに対して債務不履行による損害賠償請求を行えるからです。債務不履行による損害賠償は民法第415条に規定があり、失火責任法で適用除外となる民法第709条ではありません。そのため、失火であっても大家さんは借主に損害賠償請求ができるのです。

失火責任法

民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

失火責任法(失火ノ責任ニ関スル法律)

(民法第709条の規定は、失火の場合には適用しない。ただし、失火者に重大な過失があったときはこの限りではない。)

民法第709条

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法第七百九条(不法行為による損害賠償)

民法第415条

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

民法第四百十五条(債務不履行による損害賠償)

借家人賠償責任保険はなぜ必要?

既に説明した内容からも何となくわかるかとは思いますが、借家人賠償責任保険は火事等で原状回復できなくなったときなどのために加入が必要となります。

大家さんとしては原状回復してもらわないと他の人に貸して家賃収入を得られなくなるので損害賠償請求を起こします。その支払いに耐えられる人ばかりであればこの保険の必要性は少ないのですが、1部屋丸ごとの損害賠償となると容易には支払えない人が多いでしょう。

また、損害賠償をしても支払能力がなくて支払ってもらえないのでは困るので、借家人賠償責任保険を特約として含んでいる火災保険の契約を賃貸契約の時に求められるのです。

個人賠償責任保険・修理費用補償との違いは?

個人賠償責任保険との違い

火災保険の特約の中には日常生活において他人に対する損害賠償責任を負った時に補償を受けられるものとして個人賠償責任保険があります。損害賠償責任を負った時に補償を受けられる保険という点では同じですが、借家人賠償責任保険と個人賠償責任保険にはどのような違いがあるのでしょうか。

借家人賠償責任保険は、大家さんから借りた自分が居住している部屋に損害を与えてしまって、大家さんに対して損害賠償責任を負った時に補償を受けられます。

一方、個人賠償責任保険は、他人の部屋や家など第三者に損害を与えてしまい、損害賠償責任を負った時に補償を受けられます。個人賠償責任保険では他人から借りているものを壊してしまったときは補償の対象外なので自分が居住する部屋(=大家さんから借りている部屋)については補償の対象外です。

具体的な事例で説明すると、洗濯機の排水ホースが外れて床が水浸しになってしまい、さらに階下の部屋にも水漏れが起こったとします。このとき、階下の方への損害賠償については個人賠償責任保険、自分が借りている部屋の大家さんへの損害賠償は借家人賠償責任保険で対応することとなります。

修理費用補償との違い

借家人賠償責任保険と似たような内容の補償として修理費用補償というものもあります。これも賃貸用の火災保険では大抵セットでついてきます。

借家人賠償責任保険と修理費用補償との違いは、大家さんに対する損害賠償責任の有無にあります。借家人賠償責任保険は今までの説明の通り、大家さんに対して損害賠償責任を負った時に補償を受けることができますが、修理費用補償は大家さんへの賠償責任はないものの、賃貸借契約に基づいて事故費用で修理をした場合に補償を受けられます。例えば、飛び石によって窓ガラスが割れた場合で、窓ガラスの修理は入居者が行うこととなっていた場合は修理費用補償による補償が受けられます。

大家さんが加入する火災保険では補償されないの?

賃貸物件では大家さんが建物に関する火災保険に加入し、入居者が家財に関する火災保険に加入する形式が多いです。それでは、大家さんが加入している火災保険で対応すればよいのではないかと思うかもしれませんが、賠償すべき入居者(が加入する火災保険)からお金が支払われるのと大家さんが自身で加入する火災保険で修理するのでは意味合いが異なってきます。

入居者の過失によって損害が発生し、入居者が賠償すべきところを大家さんが加入する火災保険で修理したとします。このとき、入居者は賠償責任を果たしておらず、保険会社としても損害賠償請求すべき相手がいるのだから入居者に対して損害賠償を求めてくる可能性があります。こうした場合、入居者が借家人賠償責任保険を含んだ火災保険に加入していないと自分で賠償金を支払わなければいけません。

自然災害など入居者の非を問えない事象で建物に損害が発生した場合は大家さんが加入する火災保険で補償されることになりますが、入居者の過失が認められるようなケースに備えて借家人賠償責任保険を含む火災保険に加入する必要があるのです。

不動産会社指定の火災保険に入る必要はある?

多くの場合、部屋を借りるときに不動産会社などから指定された火災保険にそのまま加入していると思います。しかし、必ず不動産会社から提示された火災保険に入らなければいけないわけではありません。自分で保険会社を探して契約することも可能です。

不動産会社から提示される火災保険は、特に一人暮らしの場合では、補償額が必要以上に大きく保険料が割高になっていることもあります。何も考えずにそのまま加入するのではなく、補償内容を確認して必要であれば自分で他の保険会社に申し込むことで割高な保険料を払わなくても済みます。

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まとめ

借家人賠償責任保険とは、借りている部屋に損害を与えてしまって大家さんに損害賠償責任を負った時に補償を受けられる保険です。火事等で原状回復義務を果たせない場合などに役に立ちます。失火責任法では債務不履行による損害賠償責任は逃れることはできません。借主に支払能力がなくて大家さんが泣き寝入りしないためにも賃貸契約時に契約を求められる火災保険にはこの内容の保険が特約としてつけられています。


堀田健太

著者情報

堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。

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