火災保険の基礎知識

床下・床上浸水は火災保険で補償される?

投稿日:2020年8月5日 更新日:

近年増加傾向にある大型台風や集中豪雨、河川の氾濫などによって激甚化する災害が増えています。自分の住宅が床上浸水や床下浸水の被害にあった時、火災保険の水災補償で補償されるのか確認しておきましょう。

床下浸水は補償されない

ゲリラ豪雨や河川の氾濫などで家が浸水しても、多くの火災保険では床下浸水は補償の対象外となっています。その理由は、火災保険の水災補償の支払基準が以下のように決まっているからです。

水災補償の支払基準

  • 建物(家財)の保険価額に対して30%以上の損害を受けた場合
  • 「床上浸水」または「地盤面から45cmを超える浸水」によって損害が生じた場合

床上浸水とは、畳やフローリングなどの居住部分の床を超える浸水のことをいい、地盤面とは、建物が周囲の地面と接する位置のことをいいます。

多くの戸建て住宅では1階の床面は地盤から50cm程度の高さになっています。そのため、床下浸水になっても地盤面から45cmを超えないことが多いため、補償の対象外となります。また、床下浸水だけで建物の保険金額の30%以上の損害を受けるケースも少ないため、多くの場合は補償されないのです。
ただし、床下であっても地盤面から45cmを超える浸水で、断熱材などが水に濡れてしまい損害が出たというような場合は保険金を受け取る事ができます。

床上浸水は補償対象

水災補償の支払基準にもあるように、床上浸水で床や壁に損害が出た場合は火災保険の補償対象となります。床上まで浸水してしまったような場合では、住宅だけでなく家具等にも損害が及んでいることもあるでしょう。火災保険の対象に家財の契約もあれば、家電や家具も補償の対象となります。

床下浸水を放置すると危険!

集中豪雨や河川の氾濫により住宅が浸水被害に遭ったときには、床下浸水で保険金は出ないだろうと思ってもそのまま放置してはいけません。水が引けば元の住宅の状態に戻っているように見えるかもしれませんが、住宅によっては床下には配管や配線、断熱材があります。電気の配線などが水に浸かってしまうと漏電事故の可能性があり、土台や柱、断熱材も腐食してしまいます。床下の湿気によってカビやシロアリが発生してしまうこともあり、住宅へのダメージが大きくなってしまうのです。

浸水した後は床下の排水、洗浄、乾燥、消毒といった作業をおこない、きちんと処理をしましょう。自分で処理を行う事も可能ですが、業者に依頼すると数十万円の費用が掛かる事もあります。場合によってはリフォームが必要になることもあるでしょう。水災補償が適用されない床下浸水の場合は自己負担になることがほとんどです。他に何か方法はないのでしょうか?

特約でカバーする

多くの場合、水災補償では床下浸水は補償されませんが、浸水条件がなくても補償を受けられる特約を付けるのも一つの方法です。

特定設備水災補償特約

一部の保険会社では、床下や屋外にある空調や冷暖房等の機械設備が水害によって故障してしまった場合に補償される「特定設備水災補償特約」というものがあります。
近年、省エネ性を重視した住宅やスマートハウスなども増えてきており、そのような住宅では床下や屋外に高額な機械設備(空調設備や充電・発電・蓄電設備、エコキュートなどの給湯設備)が設置されていることが多いです。特約によっては浸水条件がなく床下浸水の場合でも補償を受けられるため、オール電化住宅や電気的機械設備が多い住宅に住んでいる人は確認しておくとよいでしょう。

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制度や給付金を利用

災害が起きた時に、被災者への支援を受けられる場合があります。公的支援の一つである被災者生活再建支援制度では半壊以上の損害を対象としているため、床下浸水被害の場合は支援金が受けられないことがほとんどです。以下にある他の制度の利用を検討してみましょう。なお、公的支援だけで費用をすべて賄うことは難しいため、貯蓄などで備えておく必要があるでしょう。

災害救助法の応急修理制度

大規模な災害が発生し災害救助法が適用されると、応急修理制度が利用できることがあります。日常生活に必要不可欠な部分のみの修理が適用され、準半壊(損害割合10%以上20%未満)の場合はおよそ30万円が限度額となります。例として、浸水した断熱材はカビの温床となる可能性が高いため交換対象となるようです。市区町村から修理業者に直接支払う形となるため、修理をおこなう前に申請する必要があります。

災害見舞金・義援金

都道府県や市町村によっては災害見舞金や義援金を受け取れることがあります。全壊や半壊以上など損害の程度によって支給されないこともありますが、床下浸水でも受け取れることがあります。お住まいの自治体に確認してみましょう。
また、大規模な災害が起きた時には全国から義援金が集まります。被災地域がそれを配分するため、自治体によっては床下浸水も対象となります。

罹災証明書が必要

上記の公的支援を受ける場合は罹災証明書が必要になります。罹災証明書は、どの程度被災したかを行政が認定してくれる書類となるため、忘れずに申請しましょう。
罹災証明書は自治体への申請となりますが、発行には職員による現地調査がおこなわれます。調査までに時間がかかることもあるため、住宅が被害を受けたら片付ける前に被害状況の写真を撮っておきましょう。写真を撮っておくことで被災状況の判定の参考となりますし、被害の状況を証明する証拠として役に立ちます。

床上浸水の場合は?

豪雨や洪水などの自然災害が原因で床上浸水になり、住宅に損害を受けた時は火災保険で保険金を受け取る事ができます。また、多くの場合、被災者生活再建支援制度などの公的支援で支援金を受け取ることができます。床上まで浸水すると家具や家電なども水に浸かり買い替え費用などが必要になることがあります。浸水の程度によっては受け取れる支援金額が十分ではないかもしれません。支援金だけでは生活を建て直すことが難しいため、火災保険の水災補償で備える必要があるでしょう。

水災補償の対象

火災保険の水災補償では、台風、暴風雨、豪雨などによる洪水、融雪洪水、高潮、土砂崩れ、落石などによって、建物や家財に所定の損害を受けた場合に補償を受けることができます。

また、火災保険では保険の対象を建物のみ、家財のみ、建物と家財両方の3パターンから決められます。建物に付随して動かせない部分は「建物」、動かせるものは「家財」での補償となります。

例えば「①建物のみ」を補償対象とした場合、床上浸水で家具や家電が故障しても買い直す費用が出ませんので注意しましょう。床上浸水のような被災では、床の張替えや壁の修理が必要なことがあります。置いていた家具も廃棄せざるをえない状況になっているかもしれません。
逆に「②家財のみ」の場合は浸水で故障したテレビや冷蔵庫等の家電や家具は補償されますが、建物の損害は補償されません。
どちらも備えるには「③建物と家財」両方を契約しましょう。また、大規模な浸水被害に遭った時には、使えなくなった家具などを片付ける必要があります。そんな時に役立つ特約を紹介します。

残存物取片付け費用保険金

災害で損害を受けた建物や家財の残存物を片付けるための費用(水災であれば、使えなくなった建具や家具の片付け費用、清掃費用など)の実費が支払われるという費用保険金です。大手の保険会社では損害保険金に含めて実費が支払われることもありますが、費用保険金として別枠(損害保険金の10%を限度)で支払われる保険会社もあります。片付けにかかる費用を補償してもらう事で被災後の負担軽減になるのではないでしょうか。
ただし、住宅金融支援機構特約火災保険など、水災による損害は残存物取片付け費用保険金の対象外となっている場合もあります。どのような場合に保険金が支払われるかは保険会社や代理店に確認しましょう。

水災補償は必要?

総務省消防庁の「令和5年版 消防白書」によると、令和5年1月から10月までの主な風水害による被害状況は、床下浸水の被害が最も多く18,806棟、床上浸水5,239棟、一部破損2,212棟、半壊6,588棟、全壊131棟となっています。大きな水害が起きやすいのは台風が上陸した時ですが、ゲリラ豪雨や集中豪雨などの大雨でも被害が出ることがあります。短時間で大雨が降るため河川が増水して堤防が決壊したり、排水が追い付かずに道路が冠水したりすることもあり、より水害が起きやすい状況になるといえます。

出典:総務省消防庁「令和5年版 消防白書」

河川の氾濫や浸水による水災リスクはハザードマップで確認することができます。想定される浸水深が0.5m未満では床下浸水、1m未満は床上浸水の可能性があります。2m未満は1階の軒下まで浸水が想定されるため、家財の補償も検討した方がよいでしょう。しかし、ハザードマップの浸水想定区域外でも浸水が発生し被災するケースが確認されています。ハザードマップは、自分の住むエリアの水災リスクを判断するために積極的に活用すべきですが、自然災害は想定外の被害を受ける場合もあります。
都市部でもゲリラ豪雨によって排水が追い付かなくなり被害を受けるケースがあります。都市部やマンションの低層階でも水災が起こる可能性があるため、水災補償の必要性についてしっかり考えておく必要があります。

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