最近は少なくなってきましたが、住宅ローンを借りて物件を購入する場合、ローンを借りる金融機関から火災保険に質権設定をすることを求められることがあります。しかし、質権設定という言葉を住宅ローンを借りる前から知っている人はあまりいないのではないでしょうか。質権設定とは何なのか説明します。
目次
質権設定とは
火災保険の質権設定とは、住宅ローンなどの借入金の担保として、火災保険の保険金を請求する権利に対して質権を設定することをいいます。また、質権とは、債務が返済されるまでの間、債権者が債務者から受け取った物品や権利などの担保を保管する権利のことです。もし債務が返済されない場合、それらを売却等して優先的に弁済を受けることができます。
なぜ質権設定をするの?
金融機関が質権設定を求める理由としては、火災等で家を失ってしまった場合でも住宅ローンの貸付金を回収することができるからです。建物そのものに担保を設定する場合だと、火災で全焼してしまった場合は抵当権を実行して建物を競売にかけることができません。
質権設定の注意点
質権設定が行われた場合、住宅ローンを返し終わるまでは保険金の請求権は金融機関にあります。その間はちょっとしたことで保険金を請求するのにも金融機関に連絡が必要となります。また、保険内容の変更や契約の解約なども質権者である金融機関の同意が必要となります。
別の火災保険に加入したら自分で保険金を受け取れる?
質権設定がされている間は、保険金が住宅ローンの返済に回されて保険金が手元に十分に残らない可能性があります。しかし、それでは困るからといって別の火災保険に加入しても重複して損害額以上の保険金が支払われることはありません。保険料の払い損となってしまうので気をつけましょう。
質権設定が減っている理由
最近は質権設定を求められることが少なくなっています。これは以下のような理由が考えられます。
利息を受け取るため
質権を行使して保険金から住宅ローンの残高を回収した場合、返済期限前にローンを返されたような形になります。この場合、返済期限までに支払われる予定だった利息を受け取れないことになります。また、住宅ローンを全額回収することでその顧客との関係が一度切れてしまうこととなります。顧客が住宅ローンを返済できるのならば全額回収せずに貸しておいた方が利益が大きいため、質権設定を行わない場合が増えています。
事務手続きの削減
質権設定をするのにも金融機関側の労力が必要となりますし、その後の証券の保管にも手間やコストがかかります。超低金利の中、収益を増やすために削減できる事務コストは削減していく流れにあります。その流れが質権設定にも影響していると考えられます。
契約期間が最長10年になったため
火災保険の契約期間は最長36年でしたが、2015年10月から最長10年になりました。以前であれば住宅ローンの返済が終わるまで契約の更新が不要なケースが大半でしたが、現在では少なくとも10年ごとに更新の必要があります。つまりは管理コストが増えたためです。
まとめ
火災保険の質権設定とは、住宅ローンの担保として保険金の請求権を金融機関が有する権利を設定することです。これによって金融機関は貸し倒れのリスクを減らすことができます。しかし、最近は利息の受け取りや事務コストの増加などを理由に質権設定を求めない金融機関が増えてきています。
著者情報
堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。