最近ニュース等で耳にすることが多くなった「線状降水帯」という用語。大きな自然災害にも繋がってしまうので、知っておきたい知識です。「線状降水帯という言葉はよく聞くけど、実はよくわからない」という人も少なからずいるようです。あなたは「線状降水帯」という言葉の定義や発生のメカニズムをご存知でしょうか。
また、線状降水帯による水災が起こった際のリスク管理も必要になります。損害保険料算出機構の調査によると、2021年度の全国の水災補償付帯率は65.4%となっており、火災保険を契約する人の約3人に2人は水災補償を付帯している計算です。必要であれば水災補償の付帯を検討しましょう。
この記事では、線状降水帯の定義やメカニズムを解説します。
目次
線状降水帯とは
線状降水帯とは、雨雲となる積乱雲が滞留して一定の幅を持つ線状の雨帯のことを呼びます。長さは50〜300km程度、幅は20〜50km程度となり、非常に広い範囲です。
線状降水帯が停滞する地域に集中豪雨をもたらし、交通の障害や自然災害が発生するなどの大きな影響を及ぼすことで知られています。
気象庁の調査によれば、線状降水帯は前線や低気圧に関連するという調査が出ています。しかし、維持されるメカニズムについては未解明な箇所があるため、予測しづらいのが現状です。
いつから「線状降水帯」が注目されている?
「線状降水帯」という言葉が世間的に注目されるようになったのは、平成26年8月の広島県で発生した集中豪雨からと言われています。この広島県を襲った局所的な雨では、大きな土石流が発生し、大規模な被害を与えました。
ただし、日本での集中豪雨発生時に線状の降水域がみられることはそれ以前より指摘されていました(1990年度日本気象学会秋季大会シンポジウム「集中豪雨」(話題提供者:小倉義光)など)。このときはまだ「線状降水帯」という用語は使われておらず、2007年に出版された「豪雨・豪雪の気象学」(吉崎正憲・加藤輝之著)で現在とほぼ同義の定義づけがされました。
線状降水帯のメカニズム
では、どのようにして線状降水帯が発生するのでしょうか。線状降水帯発生の要因として代表的なものに「バックビルディング現象」と呼ばれるものがあります。以下で詳しく解説します。
発生のメカニズム
線状降水帯は積乱雲が滞留して線状に連なることで形成されます。
そもそも雲が発生するメカニズムとしては、空気が上昇気流によって上空に押し上げられて発生します。上昇気流が強まり、雲が成長を続けると「積乱雲」が形成されて、局部に滞留することで線状降水帯が発生してしまいます。
以下で代表的な発生要因であるバックビルディング現象の流れを説明します。
- 暖かく湿った下層風(地上付近の風)が山地や寒気と衝突して上昇するなど、地形の効果や風の収束などによって積乱雲が発生する
- 発生した積乱雲が上空の風に流されて雨を降らしながら移動する
- 発生した積乱雲からの下降流と下層風が衝突して、最初に積乱雲が発生した場所で再度積乱雲が発生する
- 同様の流れが繰り返し起こることで、次々と積乱雲が発生し、線状に降水帯が連なっているようにみえる
このように積乱雲が同じ場所で次々と形成される現象を「バックビルディング型形成(後方形成)」と呼びます。本来積乱雲一つあたり30〜60分ほどで消えるのですが、同じ場所に向けて次々と新しい積乱雲が形成されるため、持続的に集中豪雨が発生する要因となります。
線状降水帯の発生条件
発生メカニズムの概要は判明していますが、線状降水帯の発生条件には未解明な部分が多く存在します。各高度における風や大気の安定度、水蒸気の量などの要素が複雑に関係しており、予測が難しくなっています。
線状降水帯の予測について
線状降水帯による甚大な被害が続いていることから、気象庁では線状降水帯の予測を開始しています。産学官連携してスーパーコンピューター「富岳」を用いて世界最高レベルの技術での予測を行っていますが、まだ正確な発生予測だとは言えません。現在は、その精度の向上を目指しています。
現状では、「顕著な大雨に関する気象情報」の発生条件を全て満たす場合、大雨の半日程度前に呼びかけを行うようになりました。前述の通り正確な発生予測ではないため、線状降水帯が発生する確率は高くありません。しかし、大雨が降る可能性は高いため、警戒するに越したことはありません。
顕著な大雨に関する気象情報の発表基準 | |
---|---|
1. | 解析雨量(5kmメッシュ)において前3時間積算降水量が100mm以上の分布域の面積が500㎢以上 |
2. | 1.の形状が線状(長軸・短軸比2.5以上) |
3. | 1.の領域内の前3時間積算降水量最大値が150mm以上 |
4. | 1.の領域内の土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)において
|
ゲリラ豪雨との違い
大雨としてよく聞く「ゲリラ豪雨」と線状降水帯はどのように違うのでしょうか。似ているように感じますが、実は明確に違いが存在します。
線状降水帯とゲリラ豪雨の違いは、降水範囲と降水時間(積乱雲の数)が異なることがあげられます。また、「ゲリラ豪雨」は気象用語ではなく、気象庁では使用されていません。
詳しく見ていきましょう。
降水範囲
ゲリラ豪雨は「局地的大雨」とも呼ばれます。散在する降水域が20〜30km四方の広さに点在し、狭い範囲に短時間・激しい雨が降る現象です。
一方、線状降水帯に見られる「集中豪雨」とは、線状降水帯が数時間停滞することで、広い範囲に長時間・激しい雨が降る現象を指します。
このように、降水範囲としては線状降水帯が広範囲となります。
降水時間
発生のメカニズムでも取り上げたように、線状降水帯には複数の積乱雲が存在しますが、ゲリラ豪雨は積乱雲が一つであることがあげられます。前述した通り積乱雲一つあたり30〜60分ほどで消えるため、ゲリラ豪雨は短時間で完結することが知られています。
そのため線状降水帯は長時間継続し、ゲリラ豪雨は短時間の降雨です。
ゲリラ豪雨は検知可能
ゲリラ豪雨は急速に積乱雲が発達するため、突然豪雨が降ってくるイメージがありますが、実はレーダーによって検知されています。そのため、予測は可能となっています。一方、線状降水帯については前述した通り発生条件が未解明なので、予測しづらいという特徴があります。
線状降水帯による主な災害事例
線状降水帯による主な災害事例を下表にまとめました。
集中豪雨によって土砂災害や堤防の決壊が発生し、建物の損壊や人的被害も出ているだけでなく、土砂流入や農地の浸水、山崩れなどで農業・林業へも甚大な被害が出ています。
今回紹介した事例では西日本に多く見られますが、その他の地域においても発生している事例があるため、日本全国で注意が必要です。
事例 | 顕著な災害が発生した都道府県(主な市町村) |
---|---|
平成26年8月豪雨 | 広島県(広島市) |
平成27年9月関東・東北豪雨 | 栃木県(鹿沼市) |
平成29年7月九州北部豪雨 | 福岡県(朝倉市) |
大分県(日田市) | |
平成30年7月豪雨 | 広島県(広島市) |
福岡県(北九州市) | |
令和2年7月豪雨 | 熊本県(球磨村) |
西日本で多く見られる原因としては、九州地方北東部に解析されている小さな低気圧「メソ低気圧」というものがあり、水蒸気の供給量が増加しがちです。また東シナ海南部は海水温が高いため、地表の水蒸気量も非常に多くなります。そのため、積乱雲の発生数が増えると線状降水帯が持続しやすくなるため、条件は揃いやすくなってしまう傾向が見られます。
自然災害に備えて火災保険に加入しましょう
もちろん線状降水帯に関する情報の発表条件に満たなくとも、甚大な被害が発生する懸念はあります。あなたが現在契約している火災保険は、水災に対応していますか?
ハザードマップを再確認して水災が起こる懸念があれば、水災補償を付帯しておくと安心です。ハザードマップの確認方法は、国土交通省国土地理院のハザードマップポータルサイトを確認するか、「市町村名 ハザードマップ」にて検索すると確認できます。
必要な場合は火災保険を見直してみましょう。
火災保険の一括見積もりはインズウェブで行えますので、ご利用ください。
著者情報
重松 雄太
フリーランスのライター。
統計データと実体験をもとに、難しい内容をわかりやすく解説します。
好きなものはボクシング・バイク・ケーキ。