木造の家を購入・建築する場合、「省令準耐火」にするか検討する人もいると思います。省令準耐火構造にすることで耐火性能が上がりますが、費用や設計の自由度の点でデメリットもあります。省令準耐火が必要か判断するためにもメリット・デメリットについて整理してみます。
目次
省令準耐火とは
建築基準法に定められる「準耐火構造」に準ずる防火性能をもつ構造で、住宅金融支援機構が定める構造(仕様)に合致する建築物のことを指します。
具体的な条件としては、以下の4点があげられます。
- 外壁・軒裏が防火構造である
- 屋根を不燃材料で作っている、または葺いたもの、あるいは建築基準法の準耐火構造
- 室内に面する壁及び天井は、通常の火災の加熱に15分以上耐える性能を有すること
- その他の部分は防火上、支障のない構造であること
以上の条件を満たさないといけない理由は、主に以下の3点があります。
- 隣家で火災が発生しても自宅が火事になりにくい
- 自宅で火災が発生してもしばらく部屋から外に火を広げない
- 外へ火が広がっても延焼を遅らせる
それぞれ理由について詳しく解説します。
隣家で火災が発生しても自宅が火事になりにくい
自宅付近で火災が発生した場合、延焼を予防する性能を有していることが必要です。防火バルコニーや防火帯を設置することで、隣家からの火の熱や炎が直接自宅に伝わりにくくなり、隣家での火災が自宅に広がりにくくなります。
省令準耐火構造とするには一定の条件をクリアすることが求められます。一部の条件を紹介します。
- 屋根を不燃材料で作る(葺く)
- 外壁・軒裏を防火構造にする
- 外壁の室内に面する部分の耐火性能
- 天井の耐火性能
これらの条件に適合すると類焼を防止できる可能性が高くなります。
自宅で火災が発生してもしばらく部屋から外に火を広げない
省令準耐火構造の木造住宅では、内部の構造や仕切りにも耐火性能が高い材料が使用されています。そのため自宅内で火災が発生しても、炎や熱が他の部屋に広がるのを遅らせることができます。被害を最小限に抑えるため、火の発生源から他の部屋を完全に区切る「防火区画化」が必要です。また、開口部に防火シャッターや防火ガラスを使用することで、出火した場合や燃え広がっても各室内で火を抑えることで、延焼防止に役立ちます。
外へ火が広がっても延焼を遅らせる
省令準耐火構造の木造住宅は、外壁に高い耐火性能を持つ材料を使用し、建物全体の耐火性能を向上させています。なので火災が外部に広がった場合でも、炎や熱の伝播を遅らせることができます。そのため部屋をつなぐ壁や天井内部の素材と素材の間の空気の流れを遮断することで延焼を防ぐ「ファイヤーストップ材」と呼ばれるものを設置します。結果として延焼を遅らせて火災の被害を最小限に抑えることができます。
省令準耐火構造のメリット
一般的な木造住宅より耐火性能が高い構造となっているため、次のようなメリットがあげられます。
- 火災が発生しても被害が抑えられる可能性がある
- 火災保険が安く抑えられる
- 地震保険が安く抑えられる
省令準耐火の検討の際には建築費と保険料を天秤にかけることも多いですが、1番に書いた火災による被害の減少も忘れないようにしましょう。
火災が発生しても被害が抑えられる可能性がある
木造住宅でも省令準耐火構造であれば一定の耐火性能を有しているので、火災による被害を抑えられる可能性が高くなります。防火性能が高いため類焼・延焼を防止することができ、火災が発生しても被害が軽減される可能性があります。
また、適切な防火対策が取られていることで火災の拡大を防ぎ、住人が安全に避難できる環境を提供することが期待できます。
火災保険が安く抑えられる
建物の構造で火災保険料は変動します。建物の構造が火災や災害に強いほど保険料が安く、弱いほど保険料が高くなります。
居住用のみに使用の建物の構造は、M構造(マンション構造)・T構造(耐火構造)・H構造(非耐火構造)の3つに分類されています。M構造が最も保険料が安く、H構造が最も保険料が高くなります。
一般的な木造建築は可燃性が高いため、火災などの有事における耐久性にはリスクが大きくなってしまいます。しかし木造住宅でも省令準耐火構造であれば一定の耐火性能を有しているので、火災による被害を抑えられる可能性が高くなります。火災発生によるリスクが小さくなるので、保険料が安くなる傾向があります。
通常の木造住宅はH構造、省令準耐火はT構造と見なされます。
T構造 | H構造 | |||
---|---|---|---|---|
耐火建築物 | 準耐火建築物 | 省令準耐火構造 | 外壁・軒裏 防火構造 | 外壁:準防火構造 22条区域内 |
構造躯体は 燃えない | ゆっくり燃える | 火のまわりが早い | ||
火災保険:安い | 火災保険:高い |
地震保険料が安く抑えられる
火災保険同様、建物の構造で地震保険料は変動します。
地震保険では「イ構造」と「ロ構造」に分かれ、「イ構造」の方が保険料が安く設定されています。地震保険の構造は火災保険での構造によって区分される(M構造・T構造がイ構造、H構造がロ構造)ので、火災保険においてT構造となる省令準耐火構造は地震保険でも保険料が安いイ構造に分類されます。
イ構造 | ロ構造 | |||
---|---|---|---|---|
耐火建築物 | 準耐火建築物 | 省令準耐火構造 | 外壁・軒裏 防火構造 | 外壁:準防火構造 22条区域内 |
構造躯体は 燃えない | ゆっくり燃える | 火のまわりが早い | ||
地震保険:安い | 地震保険:高い |
省令準耐火構造のデメリット
省令準耐火構造には多くのメリットがあることを紹介してきましたが、デメリットも存在します。これらのデメリットを考慮し、自身の予算や建築条件、防火性能へのニーズを総合的に判断して、適切な住宅の構造を選択することが重要です。
住宅建築費用が高くなる
省令準耐火構造の木造住宅では、耐火性能を高めるために基準を満たした建材や構造とする必要があります。要件を満たすために基準を満たした指定の不燃材料を使用しなければならないため、建築費用が高額になってしまうことも。そのため通常の木造住宅に比べて建築費用が増加する場合が高くなります。
維持管理費用が高くなる
省令準耐火構造の木造住宅は、防火性能を維持するために定期的な点検やメンテナンスが必要です。防火性能を維持するために定期的に点検を行ったり、場合によっては修繕が必要なことがあり、負担が増加する可能性があります。また、防火設備の更新が必要になった場合、費用が更に増える場合があります。
設計の自由度が下がる可能性がある
省令準耐火構造の木造住宅では、耐火性能を高めるために一定の基準を満たす必要があります。そのため、敷地の形状や大きさ、材料や部屋の構造・建物の配置やデザインに制約が生じることがあります。また、隣接する建物との間に防火帯を設ける必要がある場合もあり、敷地利用の自由度が低下することがあります。
まとめ
火災はいつ、どこで起こるかわかりません。買い替えることの少ない住宅、安全性能を高めておくに越したことはありません。
省令準耐火構造は高い耐火性能を持つ住宅構造のことで、火災による被害を軽減するだけでなく、火災保険や地震保険にかかる費用も抑えられることを解説しました。
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著者情報
重松 雄太
フリーランスのライター。
統計データと実体験をもとに、難しい内容をわかりやすく解説します。
好きなものはボクシング・バイク・ケーキ。