住宅購入時、住宅ローンを借りる条件にも含まれることから火災保険に加入する方が多いと思います。火災保険に付帯できる「類焼損害補償特約」とはどのような保険なのか、付帯する必要はあるのか、適用条件や内容を詳しく解説します。
目次
類焼損害補償特約とは
類焼損害補償特約とは、自宅から火災、爆発・破裂を発生させてしまい、近隣住宅の家財・建物へ損害を与えてしまった場合に、法律上の損害賠償責任がなくても被害者の方に補償を行うものです(上限一億円)。ただし、被害を受けた方が火災保険などの保険契約がある場合は、その保険金の額を差し引いた額が支払われます。
実は火災に関する法律で「失火責任法」という法律があり、火災の火元となっている住宅には法的な損害賠償責任はありません。しかし、その後の近所づきあいを考えると「法律上、損害賠償責任がないから賠償しない」とは言いづらいと思います。そこでこの特約の出番となるのです。
つまり「自宅からの火災が影響して隣家に被害を与えてしまっても、類焼損害補償特約を付帯しておけば安心」となりますので、ご近所との有効な関係性維持・心理的負担の軽減のためにも安心な特約が準備されています。
参考として、失火責任法とはどのような法律なのか、以下で説明します。
関連する法律:失火責任法の概要
明治時代に「失火ノ責任ニ関スル法律」(失火責任法)という法律が施行されました。
これは失火に関して原則的には不法行為にならないとされる法律で、失火者に対して責任を追求しないことを明言しています。
“民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス”
引用元:e-GOV法令検索
失火責任法が制定された明治時代では、日本には木造建築の家屋が非常に多く、失火による類焼(延焼)まで不法行為となった場合に失火者に科せられる責任が重くなってしまうことから制定されました。この法律は現在も有効で、周囲の建物に類焼(延焼)して火災が発生したとしても、火災の発生元は法的に責任を負わないとなっています。
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火災に伴う消火活動でも適用される
自宅で火災が発生した場合、周辺の住宅等においては類焼(延焼)防止の消火活動が行われることがあり、消火活動によって水浸しになってしまったり、放水によって壁が壊されてしまったりと損害を受ける可能性があります。
消火活動に伴う損害に対しては、消防に対して損害賠償を請求することはできません。しかし、類焼損害特約については適用されるため、隣家が火災保険に加入していない、あるいは十分な額の火災保険に加入していないという場合でも安心材料となります。
失火見舞費用保険金との違い
類焼損害補償特約と似たような内容のものに「失火見舞費用保険金」というものがあります。こちらは第三者の所有物に損害が生じた場合に支払う見舞金を補償するもので、隣家が十分な額の火災保険に加入していても支払われます。(一般的な相場は20〜50万円、1回の事故につき保険金額の20%が限度というところが多い。)
類焼(延焼)によって家屋や家具が損害を受けた場合の修繕に使うとなると心許ない金額なので、名前の通り、賠償というよりお見舞金という形で近隣の方との関係維持のための埋め合わせとして支払われることが多く見受けられます。
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類焼損害特約が適用されない場合
類焼損害特約にも適用対象外の場合があります。
主な代表例を3件紹介します。
- 隣家が火災保険を使用し、不足がない場合
- 重大な過失がある場合
- 類焼損害特約の補償対象外の場合
(補償プランによっては補償内容が変わる場合があるため、契約時に保険会社へ確認しておきましょう。)
隣家が火災保険を使用し、不足がない場合
隣家が火災保険に加入している場合は、基本的に隣家の火災保険が優先的に使われます。その火災保険で不足になる金額を支払うことはできますが、隣家の火災保険にて全額カバーできる場合は適用対象外となります。
重大な過失がある場合
重大な過失がある場合とは、客観的に見て故意に感じてしまうようなものを指し、少しでも注意したら簡単に予見できたのに、漫然とそれを見過ごしたような著しい注意欠如の状態のことです。
例をあげると、以下のようになります。
- 寝タバコ
- てんぷら油を火にかけたままそのままその場を離れた
- 石油ストーブの付近にふたがしていないガソリンの入った瓶を置いた
以上のような、火災を発生させてしまった者に対して重大な過失が認められる場合は補償対象外となります。一方、リビングでタバコを吸っていて火災が発生した場合や料理中の家事は不可抗力の火事として認定されることがあります。実際に重大な過失にあたるかどうかは個々の状況に応じて判断されます。
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類焼損害特約の補償対象外の場合
類焼損害特約の補償対象外とされているものの一例は以下のようになります。
- 倉庫などの居住目的でない建物
- 火災保険の家財に指定されていないもの
- 事業用途で使用されるもの
- 煙による損害・臭いの付着
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類焼損害特約加入をおすすめするパターン
類焼損害特約へ加入をおすすめするパターンは2つあり、以下にて紹介します。
- 住宅密集地の場合
- 築年数が古い住宅が多い
住宅密集地の場合
周辺の住宅との距離が近い場合は延焼しやすい傾向にあるため、住宅密集地の場合は加入を検討してもよいでしょう。日本は木造住宅が多いので、延焼が続いてしまうと大火災に発展しかねません。また、長期間住んでいる場合などは古くからのご近所付き合いがあることが大半なので、ご近所の関係性が悪くなってしまわないように加入を検討される方が多くなっています。
築年数が古い住宅
築年数が古い住宅は火災が発生した場合に延焼しやすく、老朽化によって燃えやすい場合が多々あります。また住宅ローンを払い終えた住宅などでは、火災保険の継続をせずにそのまま契約が切れている場合があります。そのような場合は周囲が原因で火災が発生した場合に保険の適用がされず、全額を自己負担しなければいけなくなってしまいます。類焼損害補償特約を契約していれば、そのような場合でも代わりに保険金が支払われます。
まとめ
この記事では、類焼損害補償特約の概要と、適用されない条件を解説しました。
失火により延焼してしまっても失火責任法により法律上の賠償責任には問われないとされています。ですが、もしもの事態が起こってしまった場合にご近所付き合いで遺恨が残ってしまう懸念があります。
類焼損害補償特約は比較的安価である場合が多いため、そうしたことを気にされる場合は入っておいて損はありません。特に加入をおすすめするパターンとして紹介した、住宅密集地・築年数が古い住宅の場合は加入しておくと非常に安心です。
著者情報
重松 雄太
フリーランスのライター。
統計データと実体験をもとに、難しい内容をわかりやすく解説します。
好きなものはボクシング・バイク・ケーキ。