日本は地震大国であり、東日本大震災や熊本地震などのような巨大な地震で住宅を失ってしまう可能性があります。仮に住宅ローン返済中に地震の被害に遭い自宅を失ってしまった場合、ローンの返済はどうなるのでしょうか?
目次
地震で住宅を失ってもローンはそのまま残る
地震によって住宅を失ったとしても住宅ローンの返済義務はそのまま残ります。地震に限ったことだけではなく、台風や集中豪雨、豪雪などの自然災害で住宅を失った場合も同様です。災害の規模が大きければ何らかの救済が行われる可能性もありますが、私有財産である住宅の保全は自助努力で行われるのが原則であり、返済がすべて免除されるということを期待することは難しいでしょう。
こうした状況であるため、事前に何らかの備えをしておかなければ新しい住宅との二重ローンであったり、ローンの返済と賃貸の家賃の二重の支払であったりと経済的に大きな負担を強いられることになる可能性があります。この事態を避けるためにはどうすればよいのでしょうか?
備えの基本は地震保険
地震に対する備えの基本となるのが地震保険です。地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災・損壊・埋没・流失によって建物や家財が損害を受けた場合に保険金が支払われます。地震保険は保険会社と政府が共同で運営する保険であり、どこの保険会社で加入しても補償内容や保険料は同じです。単独で入ることはできず、火災保険に付帯する形で契約することになります。
地震保険でいくら支払われる?
地震保険では損害の程度に応じて、地震保険金額の〇%という形で保険金が支払われます。損害の程度が一部損に満たない場合は保険金は支払われません。火災保険のように実損額での支払となっていない理由の一つに、被災後の保険金の支払を早くするためということがあります。東日本大震災では保険金の大半が地震発生の3か月以内に支払われています。
損害の程度の基準
損害の程度 | 建物の基準 | 家財の基準 |
---|---|---|
全損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の50%以上となった場合、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の70%以上となった場合 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の80%以上となった場合 |
大半損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の40%以上50%未満となった場合、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の50%以上70%未満となった場合 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の60%以上80%未満となった場合 |
小半損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の20%以上40%未満となった場合、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の20%以上50%未満となった場合 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の30%以上60%未満となった場合 |
一部損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価額の3%以上20%未満となった場合、または建物が床上浸水もしくは地盤面より45cmをこえる浸水を受け、建物の損害が全損・大半損・小半損に至らない場合 | 地震等により損害を受け、損害額が保険の対象である家財全体の時価額の10%以上30%未満となった場合 |
注意ポイント
建物における主要構造部とは、土台、柱、壁、屋根等の建築基準法施行令第1条第3号に掲げる構造耐力上主要な部分のことをいいます。生活に必要な部分であっても、塀、垣、エレベーター、給排水設備のみの損害など主要構造部に該当しない部分のみの損害は補償されません。
支払われる保険金
損害の程度 | 支払われる保険金 |
---|---|
全損 | 地震保険金額の100% (時価額が限度) |
大半損 | 地震保険金額の60% (時価額の60%が限度) |
小半損 | 地震保険金額の30% (時価額の30%が限度) |
一部損 | 地震保険金額の5% (時価額の5%が限度) |
地震保険金額というのは地震保険の保険金の上限額です。地震保険金額は火災保険の保険金額の30%~50%の間で設定することになっています。ただし、建物は5000万円、家財は1000万円が限度です。火災保険の保険金額は建物評価額と同じ額で設定するものなので、地震保険だけでは最大でも建物評価額の50%までしか補償を受けられないことになります。
火災保険の特約で上乗せ補償が可能な会社も
保険会社によっては火災保険の方で地震保険に上乗せして補償を受けられる特約を用意しているところもあります。補償が足りないと心配な場合は上乗せの契約も検討してみてはいかがでしょうか。しかしながら、補償を手厚くすればその分保険料が高くなります。家計のバランスなども考えて検討するようにしましょう。
地震保険に上乗せ補償があるって本当?
地震保険は、通常の火災保険では補償対象外となってしまう「地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災、損壊、埋没または流出による建物や家財の損害」といった地 ...続きを見る
公的支援はないの?
大規模な災害の場合、公的支援も用意されていますがそれだけでは住宅の再建に足りないというのが現実です。例えば、公的支援のメインとなるものの一つに被災者生活再建支援制度がありますが、この支援金で支払われるのは最大でも300万円です。この金額では住宅の再建築や再購入には足りないでしょう。
対象世帯
10世帯以上の住宅全壊被害が発生した市町村等の自然災害により
①住宅が「全壊」した世帯
②住宅が半壊、または住宅の敷地に被害が生じ、その住宅をやむを得ず解体した世帯
③災害による危険な状態が継続し、住宅に居住不能な状態が長期間継続している世帯
④住宅が半壊し、大規模な補修を行わなければ居住することが困難な世帯
⑤住宅が半壊し、相当規模の補修を行わなければ居住することが困難な世帯
基礎支援金 (住宅の被害程度) | 加算支援金 (住宅の再建方法) | 計 | ||
---|---|---|---|---|
①全壊 ②解体 ③長期避難 | 100万円 | 建設・購入 | 200万円 | 300万円 |
補修 | 100万円 | 200万円 | ||
賃借(公営住宅を除く) | 50万円 | 150万円 | ||
④大規模半壊 | 50万円 | 建設・購入 | 200万円 | 250万円 |
補修 | 100万円 | 150万円 | ||
賃借(公営住宅を除く) | 50万円 | 100万円 | ||
⑤中規模半壊 | - | 建設・購入 | 100万円 | 100万円 |
補修 | 50万円 | 50万円 | ||
賃借(公営住宅を除く) | 25万円 | 25万円 |
※世帯人数が1人の場合は、各該当欄の金額の3/4の額
実際、内閣府の防災情報のページによると、東日本大震災で全壊被害に遭った住宅の新築費用は平均して約2500万円なのに対し、公的支援として受給できるのは善意による義援金をあわせても約400万円にとどまりました。また、生活の再建のためには建物を新築するだけでなく家具や家電の購入が必要となります。東日本大震災の際には、被災者生活再建支援制度を申請した人の45.5%が家電・家具・寝具の購入など、住宅再建以外に50万円以上の費用をかけています(出典:平成24年度被災者生活再建支援法関連調査報告書)。
「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」も確認しよう
地震に限らず自然災害によって住宅ローンの返済にお困りの場合は全国銀行協会が策定した「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」をもとに住宅ローンを借りている金融機関に相談してみましょう。このガイドラインを利用した手続きのメリットとしては、個人信用情報として登録されないのでその後の借り入れに影響を与えないことや法的整理よりも預貯金などの財産の一部を自由財産として残しやすいことが挙げられます。
対象となるのは、2015年9月2日後の災害救助法の適用を受けた自然災害で影響を受けた方です。債務整理の成立には、ローンの借入先の同意が必要となります。手続きは以下の流れで行われますので、まずはローンを借りている金融機関に相談してみましょう。
step
1手続着手の申出をする
まず、最も多額のローンを借りている金融機関に対して、自然災害債務整理ガイドラインに基づく手続に着手することを申し出てください。金融機関で借入先や借入残高、年収、資産の状況などを聴取されますので、借り入れ状況などを整理しておくとよいでしょう。
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2登録専門家による手続支援を依頼
金融機関から手続着手について同意を得られた場合、地元の弁護士会などを通じて全国銀行協会に対し、「登録支援専門家」による手続支援を依頼できます。「登録支援専門家」は、中立・公正な立場から債務整理の手続を支援する専門家です。弁護士のほか、公認会計士・税理士・不動産鑑定士が該当します(弁護士以外は一部業務を実施できません)。手続支援は無料で受けられます。
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3債務整理(開始)の申出
登録支援専門家の支援を受けて、申出書や財産目録などの必要書類を作成し、債務整理の対象としようとするすべての金融機関等に債務整理の申出を行います。債務整理の申出後は債務の返済や督促は一時停止となります。一方で、資産や負債の額を維持する必要もあります。
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4「調停条項案」の作成
登録支援専門家の支援を受けながら、ローンの免除や減額などの債務整理の内容を盛り込んだ書類(「調停条項案」)を作成します。
step
5「調停条項案」の提出・説明
登録支援専門家を経由して、ガイドラインに適合する「調停条項案」を対象にしようとするすべての金融機関等へ提出し、説明します。金融機関は1か月以内に同意するか否かを回答します。
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6特定調停の申立
対象にしようとするすべての金融機関等から同意を得られた場合、簡易裁判所に特定調停を申し立てます。この調停には原則として債務者自身が参加する必要があります。特定調停手続について詳しくは以下のリーフレットをご確認ください。
step
7調停条項の確定
特定調停手続きにより調停条項が確定すれば、債務整理が成立します。
参考:政府広報オンライン「大規模な自然災害でローンの返済が困難になった方へ ご利用ください。 「自然災害債務整理ガイドライン」」
まとめ
地震などの自然災害の被害に遭って住宅を失っても住宅ローンはそのまま残ります。大規模な災害の場合、公的支援も用意されていますが十分な額を受け取れるとはいえません。地震保険に加入しておくなど自助努力が求められています。実際に災害救助法が適用されるような災害の被害に遭って住宅ローンの返済に困っている場合は「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」をもとに住宅ローンを借りている金融機関に相談してみるのがよいでしょう。
著者情報
堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。