不動産会社で賃貸契約をする時に火災保険の加入を求められます。そしてほとんどの方が何も疑問を持たずにそのまま不動産会社が提示する火災保険に加入しています。しかし、その火災保険の内容は本当に適切なものなのでしょうか?実は必要以上の補償となっていて保険料の無駄使いになっているかもしれません。
目次
賃貸用の火災保険とは?
賃貸用の火災保険は、基本的に自分の家財を補償するもの(家財保険)と大家さんに対する賠償責任を補償するもの(借家人賠償責任保険)がセットとなったものが主流です。また、マンションなどの集合住宅の場合、漏水などで周囲の部屋や建物に損害を与えた場合の損害賠償に対する補償として個人賠償責任保険もセットとなっていることも多いです。 それぞれについてどのようなものなのか詳しく紹介していきます。
家財保険
家財保険は火災・風水災害・盗難等で自分が所有する家財(家具、家電、衣類など)に被害があった時のための保険です。保険金額は現在所有しているものを全て買い直した時に必要となる金額が基準となります。しかし、いくら必要なのか分からないという人も多くいるかと思います。そのような方は保険会社が用意する簡易評価表を参考にするとよいでしょう。保険会社によって金額が少し異なっていますが、一つの目安になると思います。
簡易評価表
家族構成 | 2名 大人のみ | 3名 大人2名 子供1名 | 4名 大人2名 子供2名 | 5名 大人2名 子供3名 | 独身世帯 | |
---|---|---|---|---|---|---|
世帯主の年齢 | 25歳前後 | 490万円 | 580万円 | 670万円 | 760万円 | 300万円 |
30歳前後 | 700万円 | 790万円 | 880万円 | 970万円 | ||
35歳前後 | 920万円 | 1,000万円 | 1,090万円 | 1,180万円 | ||
40歳前後 | 1,130万円 | 1,220万円 | 1,310万円 | 1,390万円 | ||
45歳前後 | 1,340万円 | 1,430万円 | 1,520万円 | 1,610万円 | ||
50歳前後 (含以上) | 1,550万円 | 1,640万円 | 1,730万円 | 1,820万円 |
専有面積 | 33㎡未満 | 33㎡~66㎡未満 | 66㎡~99㎡未満 | 99㎡~132㎡未満 | 132㎡以上 |
---|---|---|---|---|---|
保険金額 | 450万円 | 880万円 | 1,050万円 | 1,490万円 | 1,980万円 |
※簡易評価表には明記物件の額は含まれていません。
※上表は家財簡易評価表の一例です。保険会社によって評価額が異なる場合があります。
実際に買い直してみたら保険金額以上に費用がかかってしまったという場合でも、保険金額までしか保険金は出ないので保険料のために保険金額を下げすぎないようにしましょう。逆に、どれだけ保険金額を高くしても再調達にかかった費用しか保険金が出ないので、高すぎる保険金額は保険料の無駄となります。
借家人賠償責任保険
借家人賠償責任保険は大家さんのための保険です。賃貸契約をするとき、基本的に原状回復義務が契約条件の中に入っています。しかし、火災等で部屋に損害を与えてしまった場合、元通りにして返すのは困難です。借家人に損害賠償を求めても資産が十分になければ損害額を完全に賠償してもらうことも難しいので、原状回復の費用を補償するため借家人賠償責任保険の加入が求められるのです。
個人賠償責任保険
個人賠償責任保険は、日常生活において他人のものを壊したりケガをさせたりして賠償責任を負った場合の賠償金などを補償する保険です。特に、マンションやアパートなどでは漏水を起こしてしまうと高額な賠償額が請求されることもあります。
個人賠償責任保険は部屋に関すること以外でも使うことができます。例えば、自転車で歩行者をはねてケガをさせてしまい、賠償を求められたという場合などでも利用することができます。
個人賠償責任保険は火災保険以外にも自動車保険や傷害保険などでも特約として加入できることが多いです。補償内容が重複していても保険金を重複してもらえるわけではないので他の保険で個人賠償責任保険に加入していないか確認しておきましょう。
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もらい火での火災は相手に賠償請求できない
自分が火災を起こさなくても隣家で火災が起きてそのもらい火で火災となってしまう場合があります。そのような火災で自らの家財などに損害を負っても火元の人に損害賠償できない場合がほとんどです。なぜなら、失火ノ責任ニ関スル法律(失火責任法)により、重大な過失がない場合の失火については民法709条に定める不法行為による損害賠償が適用されず、損害賠償請求できないからです。この法律は明治時代につくられたもので、木造住宅が多く、延焼すると責任が過大になることを考慮して失火者の責任を軽減しています。
重過失として認められた事例としては、
- 石油ストーブに給油する際に、石油ストーブの火を消さずに給油しこぼれた石油に着火して発生した火災の場合(東京高裁判決平成15年8月27日)
- 周囲を建物で囲まれた狭い場所でしたたき火の不始末(東京地裁判決昭和58年10月13日)
- 天ぷらの調理中に天ぷら油の入った鍋をガスコンロに火をつけたまま台所を離れた場合(東京地裁判決昭和51年4月15日)
などがあります。わずかな注意を払っていれば容易に火災を予見、防止できたのにもかかわらず、それを怠ったために火災が起きた場合です。
なお、失火責任法によって賠償請求できないのは不法行為による損害賠償です。原状回復義務を果たせない場合の大家さんへの賠償は債務不履行による損害賠償のため、失火責任法とは関係なく賠償責任が発生します。
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不動産業者や大家さんが勧める火災保険に加入しなければダメ?
多くの人が何も考えることなく不動産業者や大家さんが勧める火災保険に加入しています。しかし、家財保険の保険金額が必要以上に高く保険料の無駄となっているケースが数多く存在しています。
保険業法第300条“圧力募集の禁止”
賃貸契約約款次第ではありますが、保険業法第300条には“圧力募集の禁止”があり、「この保険に入らないと入居させない」というのは保険業法に抵触する可能性があります。補償内容を確認して必要以上の内容になっているのならば、別の保険会社で火災保険に加入する旨を伝えてみましょう。
著者情報
堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。