日本は地震大国であり、大きな損害をもたらす大地震は、いつ、どこで起こるか分かりません。実際に、日本及びその周辺でマグニチュード5.0以上の地震は1年間に160回以上も起こっています(気象庁_日本及びその周辺の地震回数(1年間の平均)_※2001年~2010年の気象庁の震源データをもとに算出)。地震保険は、地震で被災するリスクに備えて加入する保険ですが、未加入だとどのようなリスクが考えられるのでしょう。未加入だと困るケースについて紹介していきます。
目次
地震による損害は火災保険で補償されません
火災保険は、火災だけでなく自然災害をはじめとしたさまざまな住宅に対する損害の補償を受けることができる保険です。しかし、自然災害の中でも地震による被害は、火災保険では補償されません。地震による被害とは、「地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災、損壊、埋没または流出による建物や家財の損壊」といった地震に起因する損害です。これらは自然災害による被害であるにもかかわらず火災保険の補償対象外となり、地震による損害の補償を受けるためには火災保険とセットで契約する地震保険で備える必要があります。火災保険で補償ができない理由は、地震は広範囲かつ大規模な損害を受けることがあるので、民間の保険会社だけでは保険金の支払が難しいからです。それゆえ、政府と保険会社が共同で運営を行う地震保険で補償を行うことになっています。
では、地震保険に未加入だった場合に困るケースとしてはどのような場合があるのでしょうか。地震保険は「補償の足りない」保険と言われることもあります。それは、地震保険の一番の目的は「被災者の生活の安定」を第一の目的とした公共性の高い保険としての位置づけだからです。「補償が足りない」と言われる地震保険ですが、未加入だった場合に困るケースについて考えてみましょう。未加入であることのリスクと地震保険に加入しておいた方がよいと考えられる下記条件に当てはまる人は加入について検討してみましょう。
地震保険に入った方がいい人と未加入のリスク
次項で地震保険の補償内容について説明しますが、地震保険は地震等によって損壊した建物や家財の損害額をすべて補償するものではなく被災者の生活の安定に寄与し生活の再建資金として位置づけられています。そのため、万が一、自宅が地震等によって大きな損害を受けた時に生活再建が難しいような経済状況の人は地震保険で備えることをお勧めします。例えば下記のような条件に該当する人で地震保険の備えがない場合は加入を検討しましょう。
- 地震などで住宅・家財を失った時に生活の再建が難しい人
- 住宅ローンが残っている人
- 新築住宅を購入したばかりの人
- 地震・噴火・津波の危険性が高い地域に住んでいる人
十分な貯蓄がない人は、地震等で自宅に修理が必要な損害を受けてしまうような場合でも修理費用は自己資金で負担しなければいけません。意外と多いのは、家財の損壊です。損害を受けた家財が多数あった場合に再調達するとなると高額な費用が必要になってくるケースも考えられます。家財に受けるかもしれないリスクも考えておきましょう。
地震等によって自宅が被災してしまっても住宅ローンの支払が免除されることはありません。地震等によって自宅を失ってしまうと新たな住居費用と地震等によって失った住宅のローンの支払で二重の住居費用が必要になってしまうリスクがあります。住宅ローンが残っている場合は特に地震保険の必要性は高いと言えるでしょう。
地震が起きた後の公的支援はあまり大きくない
地震等のような自然災害を受けた場合、何らかの公的支援による補償があると考えている人も多いでしょう。確かに「被災者生活支援制度」という公的支援制度がありますがその支援額は十分な金額とは言えません。受けられる金額は住宅の被害の程度と住宅の再建方法によって異なりますが、最大でも300万円までの支援となっています。
対象世帯
10世帯以上の住宅全壊被害が発生した市町村等の自然災害により
①住宅が「全壊」した世帯
②住宅が半壊、または住宅の敷地に被害が生じ、その住宅をやむを得ず解体した世帯
③災害による危険な状態が継続し、住宅に居住不能な状態が長期間継続している世帯
④住宅が半壊し、大規模な補修を行わなければ居住することが困難な世帯
⑤住宅が半壊し、相当規模の補修を行わなければ居住することが困難な世帯
基礎支援金 (住宅の被害程度) | 加算支援金 (住宅の再建方法) | 計 | ||
---|---|---|---|---|
①全壊 ②解体 ③長期避難 | 100万円 | 建設・購入 | 200万円 | 300万円 |
補修 | 100万円 | 200万円 | ||
賃借(公営住宅を除く) | 50万円 | 150万円 | ||
④大規模半壊 | 50万円 | 建設・購入 | 200万円 | 250万円 |
補修 | 100万円 | 150万円 | ||
賃借(公営住宅を除く) | 50万円 | 100万円 | ||
⑤中規模半壊 | - | 建設・購入 | 100万円 | 100万円 |
補修 | 50万円 | 50万円 | ||
賃借(公営住宅を除く) | 25万円 | 25万円 |
※世帯人数が1人の場合は、各該当欄の金額の3/4の額
300万円では元の住宅と同程度の物件の再購入や再建築は難しいでしょう。東日本大震災や熊本地震など歴史に残る大きな災害となるような地震が自分の住むエリアで起こる可能性があります。そのような地震を想定した時に地震保険に未加入でも生活再建は果たせるのかということを考えておきましょう。
東日本大震災で全壊した住宅では約2100万円不足した
内閣府の防災情報のページによると、東日本大震災で全壊被害に遭った住宅の新築費用は平均して約2500万円なのに対し、公的支援として受給できるのは善意による義援金をあわせても約400万円にとどまりました。また、生活の再建のためには建物を新築するだけでなく家具や家電の購入が必要となります。東日本大震災の際には、被災者生活再建支援制度を申請した人の45.5%が家電・家具・寝具の購入など、住宅再建以外に50万円以上の費用をかけています(出典:平成24年度被災者生活再建支援法関連調査報告書)。
地震保険の補償内容
地震保険は、保険料や補償内容が一律で決まっています。どこの保険会社で契約しても違いはありません。火災保険とセットで契約しますが、既に火災保険に加入していて地震保険に未加入の人は、保険期間の途中であっても追加で地震保険に加入することができます。加入したい場合は、加入している保険会社や代理店に相談してみましょう。
補償内容は、損害の程度によって判定されます。全損、大半損、小半損、一部損の認定を行い、その認定に沿った保険金の支払となります。保険金額は、契約している火災保険の保険金額の30%~50%の範囲内で決めます。ただし、上限が決まっており、建物は5,000万円、家財は1,000万円です。
建物
損害基準 | 保険金支払額 | |
---|---|---|
全損 | 主要構造部の損害額が建物の時価50%以上 | 建物の地震保険の保険金額の全額(時価額が限度) |
焼失または流出した床面積が建物の延床面積の70%以上 | ||
大半損 | 主要構造部の損害額が建物の時価の40%以上50%未満 | 建物の地震保険の保険金額の60%(時価額の60%が限度) |
焼失または流出した床面積が建物の延床面積の50%以上70%未満 | ||
小半損 | 主要構造部の損害額が建物の時価の20%以上40%未満 | 建物の地震保険の保険金額の30%(時価額の30%が限度) |
焼失または流出した床面積が建物の延床面積の20%以上50%未満 | ||
一部損 | 主要構造部の損害額が建物の時価の3%以上20%未満 | 建物の地震保険の保険金額の5%(時価額の5%が限度) |
建物が床上浸水または地盤面より45㎝を超える浸水を受け、損害が生じた場合で全損・大半損・小半損に至らないとき |
家財
損害基準 | 保険金支払額 | |
---|---|---|
全損 | 損害額が家財全体の時価の80%以上 | 家財の地震保険の保険金額の全額(時価額が限度) |
大半損 | 損害額が家財全体の時価の60%以上80%未満 | 家財の地震保険の保険金額の60%(時価額の60%が限度) |
小半損 | 損害額が家財全体の時価の30%以上60%未満 | 家財の地震保険の保険金額の30%(時価額の30%が限度) |
一部損 | 損害額が家財全体の時価の10%以上30%未満 | 家財の地震保険の保険金額の5%(時価額の5%が限度) |
平成29年1月1日以降始期の地震保険
※地震保険に関する法律施行令の改正(平成29年1月1日施行)により、「半損」が「大半損」および「小半損」に分割されています。
地震保険の支払例
- 地震で大規模火災が発生し自宅も火災の被害を受けた
- 地震による揺れで自宅が倒壊した
- 地震による津波で自宅が流出した
- 地震により土砂崩れが発生し、自宅が埋没した
- 火山の噴火により建物が倒壊した
- 地震による被害で家財が損害を受けた
因果関係がはっきりしなくなるため、地震や噴火、津波が発生した日の翌日から起算して10日を経過した後に生じた損害については、保険金は支払われません。
どれくらいの人が地震保険で備えてる?
地震保険の加入率は、損害保険料率算出機構統計集2022年度版によると、2022年における地震保険の世帯加入率は35.0%です。この数字だけをみると加入者は少ないように思いますが、世帯加入率は全世帯を対象に地震保険の加入率を出したものです。地震保険は火災保険とセットで契約するため、火災保険への付帯率でみると69.4%です(付帯率は「当該年度に契約された火災保険(住宅物件)の契約件数のうち、地震保険を付帯している件数の割合」)。※世帯加入率、付帯率共に各種共済の数字は含まれていません。
地域別にみてもこれまで地震が多く起こっているエリアに住む人は加入率が高い傾向にあり、世帯加入率では宮城県が一番高く53.6%、付帯率でも89.3%となっています。
地震保険都道府県別世帯加入率(2022年)
都道府県 | 世帯加入率(%) | 都道府県 | 世帯加入率(%) |
---|---|---|---|
北海道 | 29.4 | 滋 賀 | 35.7 |
青 森 | 24.6 | 京 都 | 37.2 |
岩 手 | 27.4 | 大 阪 | 38.4 |
宮 城 | 53.6 | 兵 庫 | 34.3 |
秋 田 | 25.6 | 奈 良 | 35.0 |
山 形 | 26.3 | 和歌山 | 33.3 |
福 島 | 35.9 | 鳥 取 | 31.5 |
茨 城 | 32.1 | 島 根 | 21.8 |
栃 木 | 33.5 | 岡 山 | 30.3 |
群 馬 | 27.6 | 広 島 | 34.6 |
埼 玉 | 33.9 | 山 口 | 30.1 |
千 葉 | 36.0 | 徳 島 | 32.4 |
東 京 | 37.5 | 香 川 | 36.4 |
神奈川 | 37.4 | 愛 媛 | 29.9 |
新 潟 | 26.7 | 高 知 | 28.5 |
富 山 | 27.0 | 福 岡 | 39.1 |
石 川 | 30.2 | 佐 賀 | 29.7 |
福 井 | 35.0 | 長 崎 | 20.9 |
山 梨 | 36.5 | 熊 本 | 44.2 |
長 野 | 28.1 | 大 分 | 29.9 |
岐 阜 | 41.0 | 宮 崎 | 29.4 |
静 岡 | 32.9 | 鹿児島 | 30.6 |
愛 知 | 44.7 | 沖 縄 | 17.9 |
三 重 | 33.0 | 合 計 | 35.0 |
出典:損害保険料率算出機構統計集_2022年度版地震保険統計
地震保険都道府県別付帯率(2022年度)
都道府県 | 付帯率(%) | 都道府県 | 付帯率(%) |
---|---|---|---|
北海道 | 62.7 | 滋 賀 | 69.2 |
青 森 | 71.3 | 京 都 | 67.3 |
岩 手 | 75.5 | 大 阪 | 70.3 |
宮 城 | 89.3 | 兵 庫 | 69.4 |
秋 田 | 75.1 | 奈 良 | 74.1 |
山 形 | 69.6 | 和歌山 | 71.9 |
福 島 | 80.7 | 鳥 取 | 77.7 |
茨 城 | 66.3 | 島 根 | 68.6 |
栃 木 | 73.3 | 岡 山 | 68.4 |
群 馬 | 66.3 | 広 島 | 75.8 |
埼 玉 | 65.5 | 山 口 | 69.4 |
千 葉 | 64.8 | 徳 島 | 76.6 |
東 京 | 61.9 | 香 川 | 76.1 |
神奈川 | 63.5 | 愛 媛 | 76.0 |
新 潟 | 73.0 | 高 知 | 87.5 |
富 山 | 63.5 | 福 岡 | 76.6 |
石 川 | 64.7 | 佐 賀 | 63.2 |
福 井 | 70.8 | 長 崎 | 54.8 |
山 梨 | 74.2 | 熊 本 | 85.9 |
長 野 | 68.7 | 大 分 | 75.1 |
岐 阜 | 79.3 | 宮 崎 | 84.3 |
静 岡 | 68.3 | 鹿児島 | 84.1 |
愛 知 | 76.6 | 沖 縄 | 57.6 |
三 重 | 74.6 | 合 計 | 69.4 |
出典:損害保険料率算出機構統計集_2022年度版地震保険統計
共済を含めた加入率は、損害保険料率算出機構の統計では正確な統計調査が存在せず分かりません。参考データとして、内閣府が2015年度末における持家世帯の保険・共済の加入件数・割合(建物のみ)の公表数字によると地震補償ありの加入率は49%とされています。
自分の住むエリアによっても地震保険の必要性に関する意識は変わってくることが分かります。しかし、日本は地震が多い国で地震のリスクが低いとされているエリアであっても大きな被害をもたらす地震が起こる可能性があります。どこの地域であっても地震への備えと被災後の生活について考えておく必要があります。
まとめ
地震保険は政府と民間の損害保険会社が共同で運営する保険です。そのため、保険料や補償内容も一律で決まっています。どこの保険会社で契約しても補償内容や保険料に違いはありません。地震保険の補償内容は被災後の生活再建を第一にしています。地震等で住宅を失っても住宅ローンが免除されることがなく生活資金が居住費用が二重に必要になってしまうリスクや地震等で住宅を失った後の暮らしに不安な人は地震保険で備えておく事を検討しましょう。